伝説や噂に見え隠れする空想動物
龍伝説
中国に伝わる龍は伝説上の動物で、その姿は12世紀頃に形作られた。それ以前の時代の龍は今より胴体が短く、小さかった。最古の龍を記した遺跡は6400年前まで遡れるが、その頃の龍の図の1つに、人がまたがっているものがある。この図から推定すると全長4m程と思われる。
また、古代中国では身近な存在だったらしく「龍を食べた」という記述が春秋佐伝にある。その肉は柔らかく鳥肉に似ていたと言う。王が龍を飼い、貴族が狩りの対象にしていたという記述や図も残されている。これは、龍が実在した動物に対応することを示す証拠の1つである。
「龍骨」という漢方薬が存在するのも証拠にあげられる。漢方では効き目を確認してから薬として採用することから、龍と呼ばれる動物が存在したと考える方が自然らしい(漢方医の意見から)。もっとも、今ある竜骨は大型哺乳動物の骨であることが多い(^^;
中国の何新(カ・シン)氏は漢字の原型などをもとに、「龍は揚子江鰐(ヨウスコウ・ワニ)である」という学説を述べた。漢字の他にも、ヨウスコウ・ワニを龍のモデルとする証拠に以下のようなものがある。
- 1. 春秋時代に記された龍の図はワニによく似ている。
- 2. ヨウスコウ・ワニは体をそらして鳴くが、 これは首をもたげた龍を思わせる。 体をそらして鳴くワニはヨウスコウ・ワニだけである。
- 3. ヨウスコウ・ワニは雨が降る前に鳴く。 これは雨と結び付けられて龍が考えられている事を思わせる。 また、その声は「雷鳴のようだ」と言われる伝説上の龍とも重なる。
- 4. 漢より以前の時代には中国はもっと温暖で、平均気温が5度ぐらい高かった。 その頃にはワニが今より広く分布していた。 実際、ワニの骨が中国各地で出て来る。
- 5. ヨウスコウ・ワニの大きなものは4m程になったと言われている。 これは遺跡から推定出来た龍の大きさに近い。
- 6. 春秋時代の貴族の狩りの図の中に、 当時生きていた様々な動物が描かれているものがある。 その中に龍らしき動物が描かれているが、ワニが描かれていなかった。
もう1つ、龍の肉が鳥肉に似ていると言う記述も証拠になるだろう。ワニの肉は確かに鳥肉と味や感触が似ているのだから。
漢の時代より後になると、ヨウスコウ・ワニは限られた地域でしか見られない幻の動物となり、今では絶滅が心配されている。記憶の中のワニは想像逞しい人により神格化され、それが皇帝のシンボルとして採用されたのではないだろうか。治水を重んじる中国では、雨と結び付けて考えられていたワニは神格化されやすかったのではないだろうか。
参考
TBSテレビ「神々のいたずら」より 1997.6.22 放送
ドラゴン伝説
ヨーロッパにも龍(ドラゴン)の伝説がある。中国の龍がヨウスコウ・ワニであるならば、ヨーロッパのドラゴンはナイル・ワニなのだろうか?
ドラゴンに相当する英語やフランス語の語源であるドラコというラテン語は、ローマ人の間では大蛇を意味していた。ヨーロッパで最初の専門的な動物学の本を書いたとされる老プリニウスも、インドにいる大蛇をドラコと呼んでいる。どうやら、ドラコがドラゴンになったと考えた方がよいようだ。
なお、今に伝わるドラゴンの姿はルネッサンスの頃までに整ったらしい。
参考
「私の古生物史」ちくま文庫 吉田健一著
巨大トカゲの伝説
太平洋・オセアニアの各地には巨大トカゲの伝説がある。島に漂流すると巨大トカゲがおり、それを食べて食いつないだと言う。コモドオオトカゲを思い出させるが、コモドオオトカゲの生息地以上に広くこの伝説は存在する。日本の小笠原にもこの伝説があるのだ。
全長6mに達する巨大トカゲが100万年前まで生きており、化石が見つかっていた。ところが、オーストラリアでつい数百年前の同じ種の化石が見つかった。もしかすると、今日でも生きているのだろうか? それらしい足跡は見つかっているが、確証は得られていない。
参考
NKH衛星 ETV特集 「追跡まぼろしの動物たち」 1998.9.3 放送
サンダーバードの伝説
アメリカはロースカロライナ、チェロキー族には巨大鳥「サンダーバード」の伝説がある。その鳥は雷雨と共にあらわれ、子供をさらって行くという。かつてはサンダーバードの来襲を見張るための見張台があったと言う。
確かにアメリカ(特に南米)にはコンドルがいる。コンドルの全長は3~4mあり、小羊ぐらいさらう力がある。しかし、サンダーバードはそれよりも大きなものだと言う。
今世紀になっても北米で巨大鳥の目撃例が多数ある。フィルムにおさめられたこともあったが、そのフィルムだけでは大きさを確認できなかった。目撃者の話によると、その鳥の翼を広げた幅は6m程であったと言う。
現存する鳥で6mに達するものはないが、新生代にはこれぐらいの大きさがある鳥が実在し、化石が残っている。1000万年前に絶滅したと思われているが、未だに生き残っているのだろうか?
参考
NKH衛星 ETV特集 「追跡まぼろしの動物たち」 1998.9.3 放送
ロック鳥
千夜一夜物語にはロック鳥が登場する。ロック鳥は幼鳥時に象をえさとする巨大な鳥であると言う。マルコ・ポーロはフビライ・ハンの宮廷から故国への帰路の途中、「マガスター島」を訪れ、ロック鳥の話を聞いた。その鳥の翼はさしわたし30歩もあり、象をつかんで空高く舞い上がると言う。
「マガスター島」がマダガスカル島であることはほぼ間違いない。この島では巨大な鳥の卵が水差しとして用いられていた。 1850年、パリにその卵と一部の骨が送られたが、その卵はダチョウの卵6個分、言い方を変えればニワトリの卵150個分に相当する大きさを持っていた。その鳥には「エピオルニス・マキシムス(Aepyornis maxinus)」という学名がつけられた。この学名は「のっぽの鳥の中でももっとも背の高い鳥」という意味をもつ。おそらく、ロック鳥はこの鳥がモデルであろう。
ところが、ニュージーランドにはもっと大きな鳥が生きていた。それがモアであり、「ディノルニス(Dinornis)」という学名がつけられている。この学名は「おそろしい鳥」という意味を持つ。今日、モアは5つの異なる属に分類でき、総計24種以上の種があったとされる。
モアはニュージーランドに長い間生存していたが、 1800年までにはマオリ族に狩られて絶滅したらしい。マオリ族がニュージーランドに来る以前から、モアは狩りの対象とされ、数を減らしていたらしい。
今日、生きた巨大なモアが見つかる可能性は0に近い。ただ、小型のモア(最小のモアは七面鳥ぐらいの大きさである)は再発見されることがあるかもしれない。
参考
「地上から消えた動物」 P.121 ハヤカワ文庫NF88 ロバート・シルヴァーバーグ著 佐藤高子訳
その他参考
巨人伝説
地中海世界には古くから巨人の伝説があり、巨人の骨と言われるものが存在した。今日ではそれがマストドンなどの古代の象の骨だったことがわかっている。
ホメロスのオデュセイアに出て来る「キュクロペス」という一つ目の巨人は、古代象の頭蓋骨から生じた伝説である。象の頭蓋骨から牙がなくなると、その形は人間の頭蓋骨に似ている。中央に有る2つの鼻孔がつながっていて1つの穴に見え、両側に有る実際の目の穴は頭蓋骨の突起に隠されてしまう。
参考
「私の古生物史」ちくま文庫 吉田健一著
メドウサ
古代ギリシア神話にはメドウサという怪物が登場する。美しい顔を持つが、その髪の毛1本1本が生きたヘビで、色が白や黒にかわると言う。何よりも、その姿を見た者は石となると伝えられている。
メドウサの彫刻が今日まで残されている。彫刻のメドウサも伝説の姿形通りであるが、不思議なことに舌を出している。
そのメドウサも英雄ペルセウスに退治されるが、メドウサを思わせる動物がある。海に住むタコである。
タコに気付いたカニは動きをとめる。動けばタコに見つかってしまうからであるが、これは見る者を石にするという伝説を思わせる。タコの足はヘビのように自由に動き、海底の模様にあわせて自由に色を変える。タコの漏斗は舌にも見える。
参考
「古代人の宇宙」白揚社発行 ブレッヒャー、ファイタグ著 花野秀男訳
その他参考
シーサーペント
紀元前からヨーロッパの神話や伝説中には海に住む怪物の話がある。それは巨大な蛇を思わせる怪物で、その怪物が現れた後には大嵐が襲ってくると言う。 13世紀の古文書「バイキング 王の鏡」に幾つかの記述があり、大航海時代が始まった15世紀以降にも記述が多い。
1848年8月6日、イギリス海軍の帆船デイダラス号は東インド諸島での任務を終えて、母国イギリスに帰るため南アフリカの喜望峰を廻り、大西洋を北上していた。その時、甲板で見張りをしていた士官が、前方の海上に奇妙な生物を発見、マックヘー艦長も確認した。 巨大な怪物が頭の部分だけを海面上に現し、しばらくして水平線に消えていった。艦長が一抹の不安を感じ、海域から遠ざかることにした。すると、それまで波一つなかった穏やかな天候が一変し暴風雨が起こった。デイダラス号は嵐を無事切りぬけてイギリスに到着した。後日、謎のシーサーペントと遭遇した事件として当時の新聞で大きく取り上げられた。
シーサーペントの正体については、巨大な海蛇や、巨大なイカとする説があるが、カナダ・マニトバ大学の物理学者アームガード・レーン博士は、シーサーペントの正体を蜃気楼によるものと推測している。蜃気楼とは空気層に上下間の温度差ができることにより、光の屈折が生じて海上面にある物体が実際の姿とは異なって見える現象である。レーン博士の考えとは、海上に顔を出しているセイウチなどの海洋生物が蜃気楼によって上下に伸びて見え、シーサーペントに見えたというもの。また、自然界で蜃気楼現象が生じる際には、「空気層の温度差」と「静穏状態」が必要という。これは俗に言う”嵐の前の静けさ”である。 通常晴天時には上空に張り出された高気圧によって、上空から地上へ向い下降気流が流れている。しかし、強い上昇気流を伴う低気圧の接近により急激に天候が崩れると、上昇気流と下降気流が打ち消し合い、僅かな時間ほとんど無風状態になる。静穏状態の場合、蜃気楼が発生しやすくなる。
ところが、19世紀半ばからシーサーペントの目撃報告は激減する。それは船舶の大型化が原因と考えられる。 海上で発生する蜃気楼現象は、最も大きな温度差が生じる海面から高さ約2~15m付近で目撃されることが多い。現在の船舶は中型でも海面から高さ20m以上あるので、海面近くで発生する蜃気楼を見ることが無いと考えられるのだ。
日本でも東北地方で、嵐の直前に黒い姿を現し人々を海に引きずり込む海坊主の伝説があった。これも蜃気楼現象だったのかもしれない。
参考
日本テレビ「特命リサーチ200X」2000.9.10 放送「伝説の怪物 シーサーペントの正体を探れ!」
その他参考
汗血馬
良馬を求めていた漢の武帝は、汗血馬の話を聞いた。西に良馬あり、疾走するときに肩から血のような汗をかくと言う。
歴史の書によると、念願かない汗血馬を手に入れることができたと言うが、血のような汗とは何であろうか?
一説によると、寄生虫フィラリアは馬にも寄生し、馬の肩から出血させることがあるらしい。これが汗血馬の正体かもしれない。
ツチノコ
ツチノコの第一発見者は既にわからない。古くからマタギの間では、猛毒の蛇として言い伝えられているのだ。
ツチノコ(槌の子)の他、ノヅチ(野槌)とかバチヘビと呼ばれることもある。悪食大食なヤマカガシが、その悪食大食ゆえ山の神の怒りにふれて罰(バチ)として太い蛇にされたとする伝説が仙北奥地にあり、それゆえバチヘビと言われるようになったとの説もある。
ツチノコの体長は30cmから1mほど。マムシなどに似た三角形の頭で、尾は細く短く、木製の槌やビール瓶のような胴体を持っている。
ツチノコは左右に身をくねらせるが、上下にくねらせるという話もある。爬虫類であれば上下に身をくねらせることはない。ゴロゴロと転がる他、泳いだり、木の上から飛びかかるという話もある。
本州、四国、九州の山岳地方におり、韓国での報告例もある。今世紀になってからも報告例、捕獲話などは多数あり、空想上の動物とは言い切れそうにないのだが、未だに正体がつかめない。
一説によると、大きな獲物を飲み込んで腹が膨れたマムシがツチノコだと言う。
参考
「幻の動物たち(下)」 P.122 ハヤカワ文庫NF139 ジャン=ジャック・バルロワ著 ベカエール直美訳
「マタギ」 P.390 中央公論社発行 矢口高雄著
その他参考
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